オーストラリアと日本。文化も違えば働く環境も違う。日本も近年、少しづつ変わりつつあるようですが、まだまだオーストラリアとのギャップは大きいです。
今回は、僕が感じているオーストラリアの労働環境について書きたいと思います。
■自動車産業は2017年に完全撤退した
つい数年前までトヨタ自動車の組み立て工場がオーストラリア(メルボルン)にありました。またトヨタだけではなく、フォードもホールデンもオーストラリアに組み立て工場を持っていました。
しかし、これらの企業は2017年に完全撤退しています。それに伴いデンソーやアイシン、トヨタ紡織などのサプライヤーも撤退し、数千人の失業者が出ました。
理由は簡単で、「儲からないから」
企業の目的はなんだかんだ言って利益を出す事ですから(顧客のために、、など建前は置いといて)。利益が出ないとわかったらとっとと撤退するのがセオリー。
ではなぜ儲からないのでしょうか?僕は、オーストラリアの労働環境が労働者にとって良すぎる、つまり「労働者天国だから」というのが大きな理由の一つだと考えています。
■オーストラリアは労働者天国ってどういう事?
1. 世界基準で見ても時給が高い
まず、ここ10年のオーストラリアの法律で定められた最低賃金の変化を見てみましょう。
(https://employsure.com.au/guides/wage-and-pay/minimum-wage-australia/より抜粋しました。)
2019年現在、オーストラリアの最低時給は19.49ドル、週当たりの収入として$740.80ドルとなっています。
これは日本円だと、19.49×75=1461.75円になります。
(1オーストラリアドル=75円で換算しています)
カジュアル(バイトですね)はこれの25%UPですから、19.49×1.25=24.36ドル/hとなり、時給24ドル(日本円で1800円)となります。
カジュアル(バイト)の方が賃金が高いのは、有給とか年金などの福利厚生がないためです。日本人の感覚からするとバイトなんだから福利厚生無くて当たり前じゃんと思うかもしれませんが、オーストラリアでは社会的に弱い立場の人たちはこのように守られています。
ただ、こうして最低自給が高いということは、あまりスキルを必要としない、例えば工場の箱詰めとか、マックのバイトとかをやろうとしても、時給1800円がもらえるという事です。企業の経営者の立場だったらちょっと嫌ですよね。
ちなみに多くの自動車会社が進出している、近年賃金が上がってきたと言われているタイはこんな感じです。
最低賃金は、325タイバーツ/日。これは日本円に換算すると、1,144.37 円/日
間違えちゃいけないのはこれは1日あたりですから、8時間で時給に換算すると、1144.37円÷8=143円/時ですね。
あなたならどの国でモノづくりをしますか?
オーストラリア1461円/時
日本874円/時
タイ143円/時
はい、トヨタさん撤退して正解ですっていう話になります。
2. 有給は無制限にたまっていく
給料の次は休み、有給の話をしましょう。実は有給の日数自体は日本もオーストラリアも変わりません。
日本:年間20日
オーストラリア:年間20日
日数的には一緒なんですが、一番の違いは、オーストラリアの有給は消えないという事。日本の場合、有給の最大日数が40日ですよね。
たとえば3年間連続で休みを取らなかった場合でも、20日(1年目)+20日(2年目)+20日(3年目)=60日とはならず、最大日数の40日が適用されます。
これがオーストラリアの場合は60日になります。そもそも最大日数というのがないので、会社を辞める時まで永久に溜まり続けます。
それでやめるときは、その分がお金となって労働者に支払われます。
3. 病気の時はSickLeaveがある
また、オーストラリアには、Sick leaveといって普通の有給の他にも、病気の時に取れる休暇があります。これが年間10日間付きます。
SickLeaveもたまり続けますが、これは会社を辞めるときにお金にはなりません。ですから大抵の人は年間10日間病気になります(笑)。健康であるはずの若い人ほど病欠で休む日数が多いという不思議な(www)、現象が良く見られます。
「今日は病気で休みます」という従業員の休みが一人年間10日あるという事ですから、例えば製造業で人が欠けたらものが作れないというところは大変ですよね。まあでも経営者は絶対拒否できませんし、従業員も今日休んだら会社が困るから無理してでも行こうっていう人はいませんので、結局は会社が困るわけです。
そういうときのために、カジュアルで働いてくれる人を普段からリストアップしておくわけですが、上に書いたようにカジュアルの最低賃金はフルタイムより25%給料が高いので、結局は会社の経費が高くなります。
4. 特別休暇のLong service leaveがある
さらに、オーストラリアでは、Long service leave(ロングサービスリーブ)という特別休暇があります。
これは、一つの会社で長く働いている人(7年以上)には、そのご褒美として特別に休暇をあげましょうというものです。
このロングサービスリーブに関しては、ルールがコロコロ変わるので、以下のサイトで自分の分を計算してみました。
Long service leave calculator
https://www.business.vic.gov.au/hiring-and-managing-staff/long-service-leave-victoria/calculatelongserviceleave
僕の場合は11.7週間らしいですね。まあ、移住して以来一つの会社で働いていますので13年と少し。それで12週間弱の休み(3か月)がもらえています。今のところ全くつかってないのでそのままキープです。
まあ、これは、これで終わりではなく、今の会社で働き続けている限り、少しづつ増えていきます。単純計算ですが、このままのルールが続くと仮定すると、あと13年経ったらさらに3か月増え、合計6ヶ月分の休みになります。
すごいですよね。
5. オーストラリア人は休暇のために働く
オージーは、普通に結構長い休暇を取ります。今は引退してしまった僕の直属の上司だった人は、1.5か月くらい休暇を取って海外旅行に出かけてました。
そもそもオージーはあまり貯金をしない国民性があるのですが、ウェストパック銀行の調査によると、何のために貯金をするの?という質問に対し、以下のような回答となっています。(https://www.savings.com.au/savings-accounts/average-savings-australia/から抜粋)
- Holidays (53%)
- Rainy day funds (46%)
- Buying or renovating a home (40%)
1位はホリデーのため。53%の人がホリデーのために貯金をしていることが分かります。つまり、お金を稼いでたまったらホリデーに出かける。
これがオージーの気質です。そして、そのための社会の仕組みが出来上がっているというわけで、まさに労働者天国ですね。
■実際オーストラリアで働くってどう?
さて、上には一般的なオーストラリアの労働環境をかきましたが、僕の経験したリアリティを少し書きますね。
・給料について
僕が働いているのは日系企業なので、給料は安いです。オーストラリアに限らず、海外の日系企業で働いたことのある人は分かるかと思いますが、日本の会社は基本ケチです。ですから、給料は最低レベルから始まります。
2006年、僕が移住したてで働き始めた当初の給料は、やばいくらい安かったですね。たぶん今のカジュアルの最低より低かったのではないかと思います。
10年以上経ち、物価の上昇とともに給料も多少ましになりましたが、まあそこは日系企業なのでそれなりです。恵まれているとは言えません。
・休みは取れてるの?
自分としては、取れている方だと思います。毎年日本に帰国してますし、それに加えて別の海外旅行も毎年行けてます。合計すると毎年20日くらいはホリデーで休んでいるのではないでしょうか?休みに関しては日系企業とか関係ないですね。
・残業はあるの?
ほとんどありません。トラブル等があった場合は残りますし、夜中でも駆けつけることもありますが、日本みたいに毎日残業はしないですね。
ですから大体夕方4時くらいには家に帰れます。だから毎日子供たちの世話もしますし、ごはんも一緒に食べられます。そういう意味では家族で過ごす時間がすごく長くとれますね。ストレスも溜まらないので健康にも良いのではないでしょうか。
・日本に帰国してまた日本で仕事をやりたいか?
これについては、今のところ思いません。給料が安いとはいえ、これだけ恵まれた労働環境の中で働けるのはラッキーだと思いますし、自らそれを投げ捨てて日本に戻ろうとは思いません。
日本は本当に大好きなのですが、働く環境としてはオーストラリアに軍配が上がりますね。ただ、逆を言うと経営者としては、オーストラリアはつらいと思いますね。僕が何かビジネスをするとしたら、自分個人でやるか、人を雇わなくてもよい仕組みを作るか、どっちかにすると思います。
というわけで今回はオーストラリアの労働環境についてでした。